皆さんは筋トレ(特にウエイトトレーニング)を行うとき、どのようにメニューを組んでいるでしょうか?
ほとんどの人はRM法という挙上できるMAX重量をもとにセットを組むと思います。
筋力アップなら80%以上の負荷で少ない回数、筋肥大だったら少し重量を落として回数は10回くらい、などですね。
このRM法での考え方はシンプルに挙上できる重量、つまり筋力をもとに算出されます。
逆に言うとスピードは考慮されておらず挙上できれば速くても遅くても良いということです。
今回紹介するVBTはスピードにも着目してRMを設定する方法論です。
「Velocity Based Training」の略ですね。直訳で速度を基盤としたトレーニングです。
近年ではアスリートもトレーニングに取り入れ、成果を上げています。
今回はVBTのざっくりとした概要と、自分なりにどのようにトレーニングに取り入れるべきかを考察しています。
VBTはより高い効果を、より小さな疲労度で実現させるために有効な手段になる可能性があります。
今までの筋トレをより良いものににしたいと思っている人はぜひVBTを知ってください。
新たな発見があると思います。
目次
①VBTを知ろう
1.VBTとは何か
2.VBTの元となる考え方
②VBTのメリットとデメリット
メリット1:トレーニング時間が短くなる
メリット2:パワーを向上させやすい
メリット3:怪我が少なくなる
デメリット1:あまり知られていない
デメリット2:できる場所が限られている
デメリット3:コストがかかる
③VBTをどう取り入れるか
1.挙上速度を意識するのは◎(パワーを意識する)
2.セットの組み方を変えてみる
3.実際に体験してみる
④最後に
①VBTを知ろう
冒頭でも説明しましたが、まずは知ることから始めましょう。
1.VBTとは何か
VBTとは従来のように重量と回数だけでなく、速度にも重点を置いたトレーニングです。
ウエイトトレーニングを行う際に、重量ごとの目標挙上速度を設定します。
そしてその値を毎回の挙上でクリアすることを目標とします。
挙上スピードは専用のデバイスで管理し、都度フィードバックを行います。
セットごとのレップ数(挙上回数)は一定の速度減少が起こるまで行われます。
総レップ数の設定はありますが、セット数は決められていません。
目標速度で実施することを第一としています。
2.VBTの元となる考え方
従来では最大挙上重量を元に%RMを設定していました。
しかし、その日の状態によって同じ重さでも挙げられる回数はバラつきがあります。
つまり%RMは変動するということです。
これでは狙ったトレーニング効果を安定して得ることは難しいのではないかと考えられました。
また実際の筋力以上の負荷を与えることで怪我のリスクなども高まります。
そこで注目されたのが挙上速度です。
ある研究では、扱える重量が違っても%RMごとの挙上速度はほぼ決まっているということがわかりました。
速度をモニタリングすれば%RMが正確に割り出せるということですね。
さらに速度の変化を見ることでその日のコンディションに合わせてRMを算定できます。
ここに個人差を考慮して一人ずつに合わせたメニュー作成を行うことでより正確な負荷設定を行うことができます。
②VBTのメリットとデメリット
ここからはトレーニングのメリット・デメリットについてです。
それぞれ客観的な目線で挙げてみました。
メリット1:トレーニング時間が短くなる
正確な負荷の設定ができることに加えて、トレーニング時間が短くなるという利点もあります。
VBTでは「もうこれ以上挙がらない」という状態まで追い込むようなトレーニングはしません。
あくまで狙った速度で挙上することを目的としており、目標を下回った場合はセットを終了し休息を取ります。
これは速度が落ちた状態でトレーニングを継続しても狙った効果を得にくいという研究結果からです。
無理に回数を狙ってレップ数を重ねてしまうと従来の目的とは違う刺激が筋肉に与えられてしまいます。
筋力アップを狙っていたのに筋肥大や筋持久力のトレーニングになってしまっていた、というのを防ぐためですね。
VBTは特にアスリートを対象に行うことが多いトレーニングです。
パフォーマンス向上を狙ってトレーニングをしていたのに、かえってスピードが落ちてしまったり、
成績が落ちてしまうのを防ぎ、よりパフォーマンスに直結するように考えられています。
メリット2:パワーを向上させやすい
従来のウエイトトレーニングでは挙上重量と回数で負荷が決まっていましたが、
VBTでは加速度が指標になります。
基本的に最大速度を基準とするトレーニングなので、自動的にパワーの総量も高くなります。
研究では30~50%RMでパワーは最大値を記録するようですが、
この重さであれば最大パワーの向上にもかなり効果があるのではないかと思います。
またそれ以上の重さについても、従来よりも速度を上げてトレーニングを行うため、
それに伴ってパワーの向上が見込めます。
純粋な筋力よりもパワーを重視させるスポーツに転嫁させやすいトレーニング方法でしょう。
メリット3:怪我が少なくなる
VBTでは1回1回の挙上速度を計測し、ある一定の速度減少があったタイミングでセットを終了します。
これにより狙ったトレーニング効果に対して無意味・もしくは逆効果となるレップを回避します。
研究ではスピードが落ちたタイミングでセットを終了しても、トレーニング効果に差がないことがわかっています。また、スピードが落ちた状態で無理に回数を重ねることで怪我の確率も高くなるためそれも抑えることができます。
狙った効果を発揮しながら怪我も防ぐことができる。
一石二鳥のトレーニングともいえますね。
デメリット1:あまり知られていない
まず最初に知名度がまだまだ低いことが挙げられます。
この記事を読んで初めてVBTを知った方もいるかもしれません。
大学の研究室だけで行っているトレーニングから少し発展しましたが、
国内のトレーニングジムでVBTを取り入れている場所は少ないと思います。
パーソナルジムに限定してもその数は僅かでしょう。
ジムが少ないことに併せて、指導できるトレーナーも少ないです。
なのでやりたいと思っても、ほぼ自力で行うことになるか、
指導できるトレーナーを求めて遠方に通うことになる可能性が高いです。
デメリット2:できる場所が限られている
知名度の低さに伴ってできる場所の少なさがデメリットとなります。
VBTではトレーニングの速度計測が不可欠です。
計測には専用の装置を使用します。小型ですしスマホとも連携するものです。
この装置が備わっているジムが少ないですし、
自宅でやろうと思っても装置以外に通常のバーベルなどを調達する必要があります。
もちろん、その広さを確保するのも大変ですね。
持ち込みを行うにしてもジムに許可を得ることができるかは微妙ですから、
VBT専用のジム以外で実施するのは難易度が高いでしょう。
デメリット3:コストがかかる
3つ目はコストです。
先ほど説明した通り、専用の装置が必要です。
自宅での実施ならばその他にバーベルなどの器具も必要となります。
これだけでもかなりのコストがかかってしまいますね。
専用のジムに通うにしても会費がかかりますし、
ほぼ無料で行うなんてことはできなさそうです。
ある程度の費用がかかることを覚悟の上で行う必要があります。
③VBTをどう取り入れるか
ここまでメリットとデメリットについて説明しました。
個人的にもトレーニング理論としては素晴らしいと思います。
ただなるべく低予算でトレーニングを行うことを信条にしている自分としては、
理論を完全に実践するのはかなり抵抗があります。
またコスト面などから考えて足踏みしてしまう人も多いのではないでしょうか?
そこでここからは普段のトレーニングを少し工夫して、
VBTの要素を入れることはできないのかを考えてみました。
1.挙上速度を意識するのは◎(パワーを意識する)
まず最初にトレーニングに対する考え方として、
挙上速度を意識するのはかなり効果的なことだと思います。
これは以前ジャンプの力学的な考察でも書いていますが、
スポーツでは仕事量がかなり重要です。(いわゆるパワーのことです)
トレーニングでこの仕事量を意識しているかしていないかで、
パフォーマンスに与える効果は大きな差が生まれます。
同じ1セットでも、最大速度で挙上し続ける1セットか、
ただ回数を目標に上げる1セットかで意味が全く変わります。
VBTの要素を少しでも入れたいのであれば、
計測はできないまでも最大速度を意識してトレーニングを行うべきでしょう。
2.セットの組み方を変えてみる
VBTでは速度の低下でセットを終了します。
計測ができない以上これをそのまま行うのは難しいです。
ただ感覚的に速度が低下していることは感じられるはずです。
そこで何回くらいで速度が低下しているかを確かめたうえで、セットの回数を調整してみます。
たとえば10回3セットのトレーニングを、最大速度で6回5セット行うなどです。
同じ回数でも最大速度で行える回数をどれだけ増やせるかで、
より狙った効果は上げやすいのではないでしょうか?
3.実際に体験してみる
最後は実際に体験してみることです。
1度体験してみればだいたいの行程は理解できますし、
その後自分一人でも近いことができると思います。
そして、もし専用のジムに行けないまでも、
専用のアプリで自分の%RMを計測するだけでも意味があります。
今までは重量だけで計算していたRMを、速度ベースでより正確に知ることができます。
この%RMを基準にトレーニングを考えてみてもいいでしょう。
ちなみに体調によって%RMは変動するので、できれば毎回トレーニングの最初に図るのがいいようです。
とにかく、気になったらまずは体験してみることですね。
④最後に
自分がVBTを知ったのはある1冊の本でした。
【VBT ~トレーニングの効果は「速度」が決める~】(記事の最後にリンク貼りました。)
もともとトレーニングでパワーを重視するべきだと思っていろいろ調べていたところ、
スピードを意識したウエイトトレーニングがあるんだと知ってとても興味を持ちました。
読んでみたところ、自分がやりたいことを体現したようなトレーニング内容で、目から鱗でした。
普及にはまだ時間がかかるかもしれませんが、アスリートの方にはぜひ知ってもらいたい理論です。
今回の記事で少しでも興味を持った人はVBTについて学んでみてください。